歌舞伎俳優として20年
市川笑三郎さんインタビュー その2

 
内容は発行した時点での内容です
 

プロフィール


★プロフィール

市川笑三郎(いちかわえみさぶろう)

岐阜県出身。歌舞伎俳優。

師匠は市川猿之助。

1986年『ヤマトタケル』で初舞台。
20周年となる今年は『女殺油地獄』(三越劇場)のお吉、
『山吹』(歌舞伎座)では主役を勤めるなど大役が続いている。

舞台だけの活動にとどまらず、ラジオのパーソナリティーや講演活動なども行い、多忙な日々を送っている。

 




歌舞伎俳優・市川笑三郎さんのインタビュー後半部分を掲載します。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


<歌舞伎俳優を志したきっかけ>

「僕は岐阜県中津川市に生まれ育ちました。
幼い頃、歌舞伎好きの両親に連れられて、東京の明治座に
師匠・市川猿之助の『裏表太閤記』を観に行ったことがあります。

歌舞伎は僕自身も興味を持っていたし、何度かテレビで観たことはあったのですが、
生の舞台を目の当たりにし、かなりのカルチャーショックを受けました。

子供の頃だから内容は分からないところもありましたが、
演者のキラキラと輝く目がとても印象的でその姿にすっかり魅了され、
自分もこういう歌舞伎俳優になりたいと思ったんです。
市川猿之助の舞台をその時初めて生で観たわけですが、とても迫力があり驚きました。

余談になりますが、この日の舞台でたまたま振り落とし(幕)が落ちなくて、
その時の出演者たちのそわそわした表情や、
とんぼを切った人のかつらがポーンと飛ぶアクシデントが発生し、
子供心に『これが生の芝居だ!』と興奮したのをいまだに覚えています(笑)」。



<市川猿之助に弟子入り>

歌舞伎俳優になる夢を実現するため中学校卒業と同時に単身で上京し、
憧れの市川猿之助さんのもとに住み込みで
身の回りの世話もする内弟子として入門した笑三郎さん。
最初は分からないことだらけだったそうで・・・

「一番大変だったのは寝る前に台本を使って2人で台詞の読みあわせをすること。
スーパー歌舞伎などの長い芝居になると読むだけで3時間以上かかります。
元々は師匠が台
詞を覚えるための読み合わせだったのですが、
僕はまだ入ったばかりで台本を開いても読めない漢字はあるし、
立役から女方まで幅広い役を受け持たないといけないので、
言い方や間のとり方が悪いと、よく直されました。

役者というのは“反射神経”“瞬発力”“集中力”が大切だといいますが、
この頃の経験が僕の原点になっています。
読み合わせといっても全力でやらないと怒られますから特に集中力が必要でした。

今、『邦楽ジョッキー』というラジオ番組のパーソナリティをやらせていただき、
その中で『昔噺今様歌舞伎』と題した芝居仕立てのお話をお送りしておりますが、
登場人物の声は僕が一人でやっていますので、
この時の経験がすごく役に立っているなぁと実感しています。

師匠に言われて印象的だったのは『何事も無心にやりなさい』ということ。
『初心忘るべからず』というのは当たり前ですが、
無心にやるというのはいい加減にやるのではなく
一生懸命やった上で“上手くいくだろうか”とか“失敗したらどうしよう”という
余計なことを考えずにやるのが『無心』であり、
やったことが正しければ結果が後から付いてくるということなのですね。
人に認めてもらうために何かをするのではなく、
一生懸命やりたいことをやりなさいという師匠の教えを大切にしています」。




<人情味ある話が好き>

「自分も公演中のことが多いため、芝居を観る機会は限られてしまうのですが、
明るく派手な宝塚のレビューやミュージカルを観るのも意
外と好きですし、
親子の人情話のようなものにも惹かれます。

以前、里見浩太朗さんのお芝居で、『一本刀土俵入』を取り入れた芝居があったのですが、
あれも良かったな。

映画に関しては映画館で泣きたいので、上映前に必ずハンドタオルを膝の上に置いてから観ます(笑)。例えば、はぐれちゃった人と波乱万丈の末に巡りあえたという感じのものとか好きですね。

あと、悪役が出てくる場合でも悪い人というだけで終わって欲しくないんですね。
悪い人もそこに至るまでに色々な理由があって、
しかもその人は実は裏では手をまわしてくれて良いことをしてくれていたことが後で分かる・・・
というような作品が好きなんですよ。
期待して観に行っても、なかなか涙腺がゆるむまでいかなかったりするのですが、
本当は映画館で思いっきり泣きたいタイプなのです」。





★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★





<20周年記念ライブレポート>

8月23日にサントリーホール小ホールで『市川笑三郎20周年記念ライブ』が行われた。
第一部は自身が作った昔噺今様歌舞伎『嫁入涙の子守唄』を初上演。
笑三郎さんの一人語りに合わせてゲスト奏者が奏でる箏と笛の生演奏が心に響き、
内容もちょっぴり切ないものだったため、客席からはすすり泣く声も聞こえた。

第二部はトークや三味線の演奏など芸達者な持ち味を存分に活かした形となった。
中でも『Let’s Go KABUKI』というコミカルな形で歌舞伎の面白さを紹介した曲は
自身が作詞を手掛け歌声も披露。笑三郎さんの新たな一面を見せる楽しいライブとなった。





<今後の出演スケジュール>

・市川笑三郎さんがパーソナリティを務めるラジオ番組
「邦楽ジョッキー」はNHK−FMにて毎週金曜日放送(再放送は土曜日)。

・10月27日・28日に歌舞伎座で開かれる『紫派藤間流創流二十周年記念舞踊会』に出演。

・11月1日〜25日は新橋演舞場で行われる『花形歌舞伎』夜の部(16時30分開演)の
市川猿之助指導『義経千本桜・川連法眼館の場』に静御前役で出演する。